「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

切花

硝子の器に挿された桔梗

薄紫も優しい秋の七草

 


花を咲かせる植物は

動く事が出来ぬから

艶やかに装飾した

生殖器を剥き出しにして

虫や鳥を誘惑し

風の力も借りて受粉する

結実の為、次の命へ繋ぐ為

したたかな戦略

 


そんな花を

切り殺し

人は眺めて喜んで居る

植物の性器を飾って悦に入り

枯れたら捨てる

 


切られたら死ぬ

例え形は美しくとも魂は無い

骸は弔われる事無く弄ばれ

結実の夢は奪われる

 

 

花の扱いひとつでわかる

自然から遠ざかってしまった

人の傲慢

本音

気持ちの良い五月の夜

美味しい食事を終えた後で

会話して居た相手から

「私はあなたの言葉で

殴られ続けている」

と、告白された

アルコールで滑らかになった舌は

本音を吐き出したのだろう

一瞬にして私が触れる周りの景色が凍った

 

暴力に嬲られて育った私は

いつしか

他者へ平気で暴力を振るう事に

慣れてしまったらしい

 

反省?

今迄無責任に巻き散らした

言葉の回収など出来はしない

一度放った言葉が付けた傷は

治す手立てが無い

無数の深い傷を抱える自分が良く知っている

 

これからは

簡単に会話が出来ない

一つ一つ言葉を選んで

相手の表情を確かめながら

傷を付け無い様に慎重に

 

他者を傷つけ無い一番の方法は

私が沈黙する事

其れ以外には無い

意味の無い言葉を振り撒いて

悦に入っていた罰が当たった

 

 

 

 

 

 

 

良心

胸の奥が痛むから

誰かに冷たく当たったのだろうかと

心臓を取り出してみたら

錆びて居た

油を差して

錆を落とした心臓を

慎重に戻す

 

 

きやきやした痛みは取れたけれど

良心の痛みでは無かったらしい

何処かに持って居るのだろうか

優しさや正義など持ち合わせた覚えは無いのに

 

 

良心の正体など知らなくて良いのかも知れない

見せびらかす必要は無いし

持って居る振りをするのも疲れる

何時も機嫌を良くして

無邪気に遊んで居れば

其れで足りるだろう

後は鼻歌でも歌って居ればいい

勝手な奴だと

思われながら

抱擁

あなたが私を抱きしめる時

 

私の身体はすでに過去で

 

私はあなたの背中を通り過ぎている

 

私があなたを抱きしめる時

 

あなたの心は身体から離れ

 

あなたは私の背中を眺めている

 

 

 

夕陽の様なあなたは

 

赤い閃光を一瞬だけ放ち

 

うなずいた水平線の私に沈む

 

蒼い夜を静かに迎えた

 

二人を分かつ黒い闇

 

二度と同じ朝が来ない事を知っているから

 

違う場所で横たわる

 

それぞれの形で眠る

 

あなたと私

 

コンコンと

 

コンコンと...

心臓

心臓を取り出したら

 

錆びていた

 

ギスギスと生きて居るのは

 

そのせいかと合点がいった

 

油売りを探しにゆこう

 

鼓動が止まらぬ内に

 

 

大きな瓶を背負い

良く日に焼けた顔の油売りを

西の方で見掛けたと

誰かが言ったとか、言わないとか