「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

2012-01-01から1年間の記事一覧

深夜

その女達は街灯の下に立たない 四つ辻に隠れるでも無く佇み 行き過ぎようとする男に声を掛ける 「女遊びしませんか」 まるで市場に行った帰りの様な普段着で 知り合いと立ち話でもしている風に ネオンを避けて暗がりの中 幾ばくかの稼ぎを得ようと 自分を伴…

透明

蛇口を捻り指先を水に預けるシンクを叩く音は単調で無慈悲に何処かへ流れ去る指だけが残され冷えてゆく 液体と固体の狭間で揺らぐ肉体は常に不完全で完成を求める程、細胞は死にその骸を弔い続ける透明に憧れる悲愴 硝子のコップに水を注ぐ冷えた指を震わせ…

手紙

返信の来ない手紙を書き続ける お元気ですか もう夜は秋のにおいがしますね 夏を秋を早駆けした虫達の死骸のにおい この前、百日紅の幹で蝉の幼虫の抜け殻を見つけました 今頃脱皮して大人になっても ああそうですね 子供で居る事に我慢がならなくて羽をきれ…

読書

本を開くと 頁に並んでいる文字が ぼろぼろと落ちた 拾い上げようとしたら 何かの文字の欠片が指先に刺さり 血が滴った 次の頁をめくっても 次の頁をめくっても 文字はこぼれ落ち 足元は黒い小さな破片で埋もれてゆく しばらく眺めていたけれど 立ち上がり …

断片

如月 街灯の下 風が瞼を切る 午前五時 ・・・・・・・・・・ 車が屋根に積んだ雪を零しながら走り去る。 落とし主不明の荷物を一欠片、手袋を外して拾う。 ・・・・・・・・・・ 鳴る風に釣られて走った視線の端に咲き折れた水仙 ・・・・・・・・・・ 突き…