「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

2008-01-01から1年間の記事一覧

黎明

夜を通り抜けた空が 朝のほとりに辿り着く 紫に薄まってゆく闇 赤く滲む地平線 凍った空気を切り裂く甲高い鳥の鳴き声 冷えた雲は低くゆっくりと漂っている ほんのりとした前兆だった光が 太陽の固まりとなって鮮やかに昇る時 地表は柔らかに目を覚ます 影の…

冬眠

空は冬に澄んで 雲が雪を連れて来る 掌の中で眠らせて 永遠に春を待つ種 小さな夢を包んだ結晶 花を咲かせるその時まで 静かに 静かに あなたの胸で眠らせて

信号

雨の夜 世界の片隅の部屋に取り残され ひとり 誰も読まない言葉を綴る 繰り言 繰り言 外は雫で満たされているのに 内側は涸れている 飢えている こんなにも穏やかな夜なのに安らげない 隙間だらけの気持ちから 血の様な溜め息が滲む S O S S O S 聞こえませ…

迷路

横目で見遣ったら、そこには混沌 萎縮した意識の外に放ったらかしの無意識 自我はさっきから水蜜桃を齧っている 他者の視線は混線し ナイフは出番を待ち伏せる 飛んでいるのはインク壷 追いかけるペンは日記から逃げ出す 赤い月が笑うから 白兎は泣いた 憂鬱…

殺伐

抱いて 私の背負う罪の重さを受け止める力が有るなら 証明してみせて 私の腕を掴んで放さない死神ごといたぶれるなら この身体を好きにして 時間が無い その時が来たら崩れてしまう 誰にも見つからなくなってしまう 抱いて 背骨が仰け反って折れる程 私を抱…

色彩

私は廃墟 熱帯のジャングルの 緑が秘めた古人の熱が 砕けきれずに眠る場所 私は羽根 空を映して青を閉じ込めた 湖の上をすべり抜ける鳥の幻 色彩に彷徨う魂は あらゆるものに形を変えて 静かに虚空を見詰める 光が約束した魔法 目を閉じても、夢の中でも 呪…

目印

行き交う 人 行き交う 流れる 時 流れる 戻らないものばかりを追いかけて 今を見失ってしまう 欲しいものと必要なものの区別がつかない 蜃気楼へ続く道は溺れている 夢 目覚めたら終わるだけ 今日も枕は濡れている

蜘蛛

蜘蛛を殺した 私の右腕にふわりと落ちて来なければ良かったのに 目立たぬ所でなら、ひっそりと生き抜けた 容姿の異形で人に嫌われる 足を広げれば多分、私の掌と変わらない大きさの蜘蛛 私は少し怯えながら慌てて薬を吹きかけた 何の悪さをする訳でも無い生…

綿飴

私は綿菓子でいいの あなたの口の中で溶ける 淡いピンクでいいの 舌を真っ赤に染めてあげる 祭りの思い出だけ 残ればいいの 騒めいてるの 素敵でしょ 虫が沢山死んで夏が終わる 仕舞いの祭り 一口だけでも 齧ってみて ほんのひととき 甘く 楽しませてあげる…

愛撫

止まった時計 過ぎた時間は虹の弧を描いて 文字版の上で眠る 現の計らい 記憶の中で飛び交う怒号をかき消す様に 夢においで 抱いてやろう 私を守る獅子が そう 呟いた

変身

あなたがわたしに 薔薇に成れと言うのなら 鮮やかに紅く色づいて 切られて硝子の器に生けられて 花芯が解けて枯れるまで 静かに窓辺に咲いていよう あなたがわたしに 煙草の煙に成れと言うのなら 淡く蒼く匂い出て 虚空を漂い夢を見て 瞬く間に風と紛れ 壁の…

痕跡

対峙する二人の私 互いの喉元に剃刀を突きつけ合って 動かない 目を逸らさない 声を出さない 「お前は誰だ」と 問うている どちらも私 どちらも私では無い 否定も肯定も意味が無い 目を見開いたまま眠れ 沈黙が吐き出す鈍色の糸にくるまれて 歪な繭に成れ 時…

虚無

apoptosis 身体に仕組まれた時限爆弾 この身をメスで切り刻んで 追いかけても、追い付けない自死 いっそ死を抱きしめて心中しようか いや、死を殺そうか この世は幻 わかっているのに振り回される人間の愚か 死ですら幻 死にゆく者にしか 答えを知らされぬ謎

幻影

あなたの からだ しなやかに すいつく はだ からんで おちる かみ ほどけない ゆび はみだす きもち むさぼって もとめたけれど なかみは から

徒歩

少し頭を傾げながら 独りで 正気と狂気の境目を 歩いている 踏み外せば ストンと闇に落ちる 何も見えなくなる聞こえなくなる それが怖いから 爪先で探りながら まだ明るい、まだ大丈夫と 自分に言い聞かせて歩いている 時々立ち止まっている 常に踏み出す足…

罵倒

吐いた言葉が 毒色になって散らばる 誰かの急所をめがけて 直線で飛ぶ刃に成る 居所の無い身体と、行き場の無い魂が 激しく軋んで、汚い血を搾り出す どこにも、なにもないのよ どこにも、だれもいないの 唇を錆びた針で縫ってしまいなさい 毒を吐くのなら、…

岩石

黙ってそこに在るだけの 石に成りたい 地面から切り離され 引力のまま 地球にくっ付いている 何もせず 何もされず 転がっている 石に成りたい

天使

私の天使が眠る時間 私は起きている 眼が冴えている 眼の裏側で涙を流している 夢の中ですら指さえ触れ合えない 抱きしめる事が出来ない 私の天使 見守られている けれど、時々見放されている 天使が眠っている時間 私はほったらかしにされている 独りで世界…

誕生

その人は鷹の目 本能の視線で 刹那よりも素早く 被写体を空間ごと、切れ味鋭く捕まえる その人は小鳥の目 直感は鮮やかに 色彩と、流線と、陰影で 人の、物の、景色の、表情を 細密画の繊細で写す 優しく厳しく情熱的で素直で温かい生きる喜びを楽しみ死ぬ事…

粉砕

砕けろ 一瞬、そう願った 私は車の窓硝子を殴った 頑丈な硝子は割れる事無く ただ、ひ弱な手に痣が残った 尊敬する先輩が 重篤な病だと知らされた やる方の無い思いをどうしようもなく 砕け落ちよと、硝子を殴った 砕け落ちよと、拳の骨で殴った 力不足のこ…

夏祭

時計で日付が変わるのを見届けて 爪先の火照りに気が付く 迷わず体温計をくわえた 37.5度 平温が低めの私には、少し高い 解熱剤を禁じられた身体 安静にするしか無い きっと、体内で闘っている 均衡を脅かす何かを排斥する為に 肌が、殺気を帯びている 理不…

駆引

告白しようか 私は嘘つき

痛覚

痛みは、はかれない 最先端の機器を使えば 数字や、グラフや、色で 示されるらしいけれど 重さや、苦しさや、やり切れなさまで 表示はしない 人はミリグラム単位の毒で死ぬ なのに釦くらいの鎮痛剤は役立たず 痛みを殺してくれない 痛みを嫌う思いをわかって…

知識

歴史の襞をめくろうとすると 自重を発揮して 影を隠そうとする 変化するその時々の力を借りて 知ろうとするものを四次元の彼方へ放逐する 真実は幾重にも折り重なりあう思惑に包まれ その糸口は絡まり、扉には鍵を掛け 誰からも、どの角度からも 容易く見え…

触感

さわって私の言葉にさわってみてそれだけでいい あなたに伝えたくて私の芯で育てた思いが言葉になって爆ぜてゆく どうぞさわって確かめて欲しい張り詰めた感情の弾力を感じて欲しい 私もあなたにさわりたい息を殺した指先であなたの思いをなぞってみたい悪戯…

創作

「月がとっても青いから遠まわりして帰ろう」 と歌われた小道は すでに車しか走っていないかもしれない もう、無くなってしまったかもしれない 「蘇州夜曲」の流れた街は 恋人達に素っ気なく 観光客が闊歩する 「夜来香」は、見直され 懐古趣味の若者が歌う…

尺度

「私の事、どのくらい好き?」 「けっこう好き」 「ふーん」 女は、確認し、同意を求める 男は、はぐらかし、黙る 恋愛ごっこ いつまで続くやら

初夏

熱帯夜の予告で開けた朝 窓際で鳴く蝉に目が覚めた 今年初めての声 場違いの恋唄 肌にじわりと暑さがにじり寄る 群れてなく蝉ならば それは風景にもなるだろう けれど、たった一匹の その身を搾る様な鳴き声は 何処にもとけ込まずに 初夏の朝をかきむしる 暗…

折紙

なにもかもが上手くいく事など そうそう無いと、わかっていても 折っては ひらき折っては ひらき 筋ばかりが幾重にも付いて どれが本当だか、わかりゃしない お母さん これはどう折るの? 手引書を見てもわからないの 教えて 母の指先は静かに動き 正確な角…

飴玉

薄荷 発火 口の中で冷たい炎をあげた そして 薄化 薄情な味は束の間の恋に似て 跡形も無く消えた