「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

初夏

熱帯夜の予告で開けた朝


窓際で鳴く蝉に目が覚めた


今年初めての声 場違いの恋唄


肌にじわりと暑さがにじり寄る




群れてなく蝉ならば


それは風景にもなるだろう


けれど、たった一匹の


その身を搾る様な鳴き声は


何処にもとけ込まずに


初夏の朝をかきむしる


暗い地中を長く生き抜いた命の強さを誇っているのか


それとも変わりたての身体に仕組まれた


短い余生を憂いているのか


思いを巡らす束の間に


耳鳴りの様な余韻を残し


蝉は飛び去った




小さな緊張からほどかれ


起き上がりもしないまま 私は再び眼を閉じた