「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

2010-01-01から1年間の記事一覧

夏至

呪縛

私をほどいて その指で かたくなな結び目は がんじがらめ 引きつり、歪んで 肌に食い込み 赤い痕になっている 動けば動くほど 縄は痛くて うつぶせに転がっている どのくらい時間が経ったのかわからない ここが何処なのか忘れ 刃物を探す気も失せた 痛みに耐…

花束

夢想

黒髪

部屋

鞭を撓らせ固く冷たい床を打つ様な声で 女は拒絶する 男は黙っている 抑圧の全てはお前のせいだと罵る女の 軽蔑と憤怒に満ちた青い炎を立ち上らせる瞳を見ている かつて椿の花弁の様に紅潮し、しなやかに自分だけに捧げられた肢体を 耳に押し当てられた柔ら…

陽炎

桜の木の下で爪を噛む子が遠くを見ている眉を顰めながらじっと何処かを見詰めている 桜の花は散っていて咲いていたのが本当か春の仕掛けた華やいだどんでん返しの芝居の様で慌ただしく新緑を纏った枝は何も無かった顔をしてざわざわと風に騒いでみせる 春だ…

徹夜

瞬きすら忘れて 手繰り寄せる様に朝に行き着いた 夜はその影をいつの間にか引き取っており 気が付いたら部屋は顔色を変えている ただ、春の日差しが ぽかんと窓の形に床へ落ちる 闇を閉じ込めていた場所に不釣り合いな光は うろうろと居場所を求めるけれど …

途中

生まれたその日に乗り込んだ 葦舟に揺られ 両岸の見えない川を下る 帆は無く、櫓も無く ただ 漂い来る言葉を 拾っては捨て 拾っては捨て そして呟き 死ぬ迄の あわいを 玩ぶ

陶酔

しどろもどろの蚯蚓がのたうつ 頭痛だと思っていた けれど、それはやがて蛇になり 玉虫色に鈍く光りながら蜷局を巻いて がらんどうな頭骸骨の中に鎮座した 無限の口から二本の青い舌を俊敏に出し入れしては 紅玉の眼でひりひりと視線を監視している シュ、シ…

室内

遮断された光が地団駄を踏む 束の間の視線を投げかけたその先は 時間を追いかける引きつった空間が広がる 風景に酔ってはいけない 全てはいつか壊れる 今は刹那に過去となる どんな感情も鮮度を保ったまま 記憶するのは難しい 座っている椅子が、昨日の物と…

連鎖

言葉遊びに現を抜かし 虚ろに絡まり睨めっこ 鏡の中身は抜け出して 残った硝子で万華鏡 砕けた記憶は散り散りに 百科事典へ逃げ込んだ 頁を捲って探しても 昨日の月は戻って来ない 鋏に挟んだ針金飛んで 時計に刺さって深夜を刺す 笑わないのは蜥蜴だけ 掌/…

草紙

大嘘吐きで馬鹿正直なそんな女がおりましてどうしようもない男に惚れては身包み剥がされ捨てられておりましたどんな酷い眼に遭ってもあははと笑って白を切り一人になると泣きながら、夜道を歩いておりました 大嘘吐きで馬鹿正直なそんな女はいつもバレる嘘を…

電車

線路をはみ出した電車が ガタガタと音を立てながら夕陽に向かって走って行く 誰かが待っているプラットホームを見向きもせずに 落ちようとする太陽を追い掛けている 客席には誰もいない 運転手もいない ただ、空っぽの四角い電車が一両で 走り慣れないアスフ…

存在

無意味な言葉は要らぬと言われて 私の口はなくなった 口がなくなったから綴ろうと思ったら 下らぬ事を書くなと言われて 私の腕はなくなった 書く事が出来ずに泣いていると 泣くなと言われて 私の眼はなくなった 何も出来なくなった私がうろうろしていると そ…

夢中

夢にまで見た夢は夢のまた夢 背伸びをしても届かないから ジェイコブスラダーを待ち侘びる けれど、それは空気の煌めきで 私はエルメスの翼靴を持っていない 少彦名の様に粟に乗って飛んでみたいけれど まだ畑に芽吹きは無い 希望も願望も混沌 叶えられるも…

恋慕

海が見えなくて 私の中に海がいっぱい 遠くない 近くない 潮騒は聞こえるのに 波は闇の奥で どこにでも繋がってゆく水に憧れる 色んな形に変化する水を畏れる 水の母、海 恋しい 海が見たくて 私の中は涙がいっぱい 繋がれ、繋がれ 涙の形をした私と海 つな…

飛梅

あなたが呼んだから 私は飛んだ 身も凍る如月の東風を切り裂いて 裏切られ 安息の地を逐われたその人を、涙を泉に変えたその人を 何故に忘れられようか、無惨に放っておけようか あなたの為の 花嫁衣は純白の花 弾けんばかりの蕾を一つも零さぬ様、ただ一途…

群青

見えない海に沈んで 水面を眺めている 青に散る光 痺れた四肢を放ったらかしにして 涙の匂いのする液体に溺れている 身体が揺れているのか 意識が歪んでいるのか 体内の 細胞の 隅々までの水分が 解き放たれてゆく 枯れた珊瑚の様に砕けて このまま砂になれ …