部屋
鞭を撓らせ固く冷たい床を打つ様な声で
女は拒絶する
男は黙っている
抑圧の全てはお前のせいだと罵る女の
軽蔑と憤怒に満ちた青い炎を立ち上らせる瞳を見ている
かつて椿の花弁の様に紅潮し、しなやかに自分だけに捧げられた肢体を
耳に押し当てられた柔らかい唇から漏れる甘く優しい吐息を
思い出しながら
男は立っている
何が滑り込む隙間も無い程、互いを貪ったのに
いつの間にか小さな亀裂が入り、メリメリと一つだったものを引き裂いた
楔を打ち込んだのはどちらだったのか
それとも、最初から一つでは無かったのか
「幻」
男は考えている
女は既に燃え尽きようとしている
瞳に走っていた炎は全身を覆い
青白い揺らめきとなって、もう輪郭も危うい影しか残っていない
夜景の映る硝子窓に寄り掛かり、薄暗い孤独の静寂に沈もうとしている
時が過ぎた
男は
女に背を向け
扉に向かい
手に馴染んだ真鍮のドアノブをゆっくりと廻して開き
一度も振り向かずに
部屋を後にした