「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

部屋

鞭を撓らせ固く冷たい床を打つ様な声で


女は拒絶する


男は黙っている


抑圧の全てはお前のせいだと罵る女の


軽蔑と憤怒に満ちた青い炎を立ち上らせる瞳を見ている




かつて椿の花弁の様に紅潮し、しなやかに自分だけに捧げられた肢体を


耳に押し当てられた柔らかい唇から漏れる甘く優しい吐息を


思い出しながら


男は立っている




何が滑り込む隙間も無い程、互いを貪ったのに


いつの間にか小さな亀裂が入り、メリメリと一つだったものを引き裂いた


楔を打ち込んだのはどちらだったのか


それとも、最初から一つでは無かったのか


「幻」


男は考えている




女は既に燃え尽きようとしている


瞳に走っていた炎は全身を覆い


青白い揺らめきとなって、もう輪郭も危うい影しか残っていない


夜景の映る硝子窓に寄り掛かり、薄暗い孤独の静寂に沈もうとしている




時が過ぎた


男は


女に背を向け


扉に向かい


手に馴染んだ真鍮のドアノブをゆっくりと廻して開き


一度も振り向かずに


部屋を後にした