「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

陽炎

桜の木の下で

爪を噛む子が遠くを見ている

眉を顰めながら

じっと何処かを見詰めている



桜の花は散っていて

咲いていたのが本当か

春の仕掛けた華やいだ

どんでん返しの芝居の様で

慌ただしく新緑を纏った枝は

何も無かった顔をして

ざわざわと風に騒いでみせる



春だから花が咲いたのか

花が咲くから春なのか

来年も桜の花は

咲くのだろうか

当たり前の事の様に



あの子は何を見ているのだろう



遠くを見詰める子の身じろぎもしない肩に

桜吹雪の陽炎が

空に舞い上がって青く消えた