「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

草紙

大嘘吐きで馬鹿正直な

そんな女がおりまして

どうしようもない男に惚れては

身包み剥がされ捨てられておりました

どんな酷い眼に遭っても

あははと笑って白を切り

一人になると泣きながら、夜道を歩いておりました



大嘘吐きで馬鹿正直な

そんな女はいつもバレる嘘を吐き、いつも惚れたら命掛け

見る目が無いと罵られても

毎度、男に騙されて

懲りない奴だと白い眼で

陰口を叩かれておりました



大嘘吐きで馬鹿正直な

そんな女は自分に惚れてくれる男など

この世には居ないと思っておりました

惚れるだけでいい、独りぼっちでなければいい

さり気なく煙草に火を点けてくれる人

そんな人の為になら私の全てをあげるのと

いつも吐き捨てる様に呟きました



大嘘吐きで馬鹿正直な

そんな女が本当に欲しかったのは

安心して眠れる寝床でした

どんな時でも大丈夫だよと守ってくれる男が傍におり

睡眠薬も飲まずに熟睡出来る

たったそれだけの事でした



大嘘吐きで馬鹿正直な

そんな女は一緒に死のうと謂う男と出会いました

君に惚れていると謂われました

こんな優しい人に出会ったのは初めてだ

僕と一緒に死んでくれと謂われました

その男の瞳は今まで観た事が無い程、深く澄んでいました

笑うと片えくぼの出来る青白い陶器の様な肌をしていました



大嘘吐きで馬鹿正直な

そんな女は消えました

男と一緒に死んだのか

それとも何処かへ逃げたのか

誰も知りませんでした

誰も探しませんでした



大嘘吐きで馬鹿正直な

そんな女がおりました