変身
あなたがわたしに
薔薇に成れと言うのなら
鮮やかに紅く色づいて
切られて硝子の器に生けられて
花芯が解けて枯れるまで
静かに窓辺に咲いていよう
あなたがわたしに
煙草の煙に成れと言うのなら
淡く蒼く匂い出て
虚空を漂い夢を見て
瞬く間に風と紛れ
壁の染みに成るだろう
あなたがわたしに
稲妻に成れと言うのなら
群青の曇天を引き裂いて
生き物達をおびやかし
高らかな雷鳴を響かせて
真夜中の心臓を貫くだろう
あなたはわたしに
何も言わない
だから わたしがあなたに言おう
わたしの記憶の何処にも残らぬ様
存在の全てを消して居なくなれ と
求められぬ虚しさを
その身をもって思い知るがいい
微塵の情けを持たぬ人
縁の哀れも知らぬ人
あなたの非情はわたしの非情
あなたがわたしに
去ってくれと言ったなら
さようならだけを残して
静かに 何処かへ立ち去るのに
黙って 遠くへ
旅立つのに