「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

変身

あなたがわたしに


薔薇に成れと言うのなら


鮮やかに紅く色づいて


切られて硝子の器に生けられて


花芯が解けて枯れるまで


静かに窓辺に咲いていよう




あなたがわたしに


煙草の煙に成れと言うのなら


淡く蒼く匂い出て


虚空を漂い夢を見て


瞬く間に風と紛れ


壁の染みに成るだろう




あなたがわたしに


稲妻に成れと言うのなら


群青の曇天を引き裂いて


生き物達をおびやかし


高らかな雷鳴を響かせて


真夜中の心臓を貫くだろう




あなたはわたしに


何も言わない


だから わたしがあなたに言おう


わたしの記憶の何処にも残らぬ様


存在の全てを消して居なくなれ と


求められぬ虚しさを


その身をもって思い知るがいい


微塵の情けを持たぬ人


縁の哀れも知らぬ人


あなたの非情はわたしの非情




あなたがわたしに


去ってくれと言ったなら


さようならだけを残して


静かに 何処かへ立ち去るのに


黙って 遠くへ


旅立つのに