「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

断片

如月 街灯の下 風が瞼を切る 午前五時


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車が屋根に積んだ雪を零しながら走り去る。
落とし主不明の荷物を一欠片、手袋を外して拾う。


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鳴る風に釣られて走った視線の端に咲き折れた水仙


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突き抜けたいけれど、飛び抜けたくは無いと思う夜の始まり。

   
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野良猫さえ住まぬ町の日曜日


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弥生 雨垂れ 暗い朝 雀達は電線の上で声も立てずに身を寄せ合っている


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去る三月。足跡も残さずに。ただ水だけを温かくして。


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卯月 産み月 初めてが始まる月 
浮き足立った人々の足元掬った嵐が去り 
残されたのは真空管に閉じ込められた窓


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裸で空を飛びたい。


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皐月 五月雨 濡れる風 若葉を弾く雨音は滲んで響く


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水無月 小雨に並ぶ喪服の列 背後で祈る手には亡き人の数珠 
菩提樹の珠が一つ掛け落ちて


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文月 蝉が鳴き盛る午後 病院行脚 
伝書鳩の様に紹介状と診断書を運ぶ