「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

杜若

この窓を開けたら
杜若が観えないか


触れるもの全てを傷つけそうな深緑の刃に守られ
濃紫の、真白の冠を頂き
切れ長の黄色い眼で鋭く三方を見張りながら
人を寄せ付けぬ水辺に群れる
気高い花が観えないか


雨音が響く孤独の部屋の
その堅く閉ざした窓の外で
鮮やかな生命達が屹立してはいないか


惨く刈り取って飾るには
部屋は乾き過ぎている
ひび割れた天井に、雨雲を誘い入れ
澄んだ雨を降らさねば
きっと刹那に枯れるだろう


群れを室内に連れ込んだなら
床は沼と化し
生命の混沌が緩慢に奔放な根を育て
閉じ込めた仕返しに
愚鈍な四肢を絡め取られ溺れてしまう


この窓の外に
杜若は観えないか