五月
空を見上げ
あまりの眩しさに
光から逃げて俯いた
湾曲した視線は
影の的を射抜く
眼を瞑っても
光線の残像を持て余し
諦めるしかない
痛みにも似た感覚に痺れ
再び虚空を凝視してしまう
五月よ
光の魔法よ
呪文を受けた者達は
花々の周りを乱舞する
楽園に遊ぶ己れに満足し
無邪気に笑う
やがて時が過ぎ
煌きが雨に流され
太陽の熱が地面を焦がすまで
楽園は永遠で無いのだと知っているのに
魔法に騙されたふりを続けながら
笑う 笑う...
社会
鏡を見る瞳に
砂漠が映った
ふとした仕草の端々が
乾いている意味を知る
漫然と生きる事は易く無く
日々の移ろいを
安全な場所から見送るだけで
競争に参加していない事を戸惑え
と誰かが囁く
人の数だけ有る日常を
一つと数える計算に
目眩がする
個が個だと主張する為に
心が
カラカラに干からびる程
語り尽くし
身体が
薬でやっと機能を維持していても
疑われる
何故、沢山の証明が必要なのだろう
唯
「私は私です」
と答えれば済むだけなのに
鏡を見る
そこには砂漠に水を撒こうとする
無謀で
けれど真剣な
自分が映っていた
人知れず闘う魂もある
と、呟きながら
角度
鋭角の孤独を
慰める為に
足りない角度が知りたい
自分は何度ですか
幸せ迄
何度足りないのですか
分度器を当てて
答えてくれる人は居るだろうか
いっそうの事
サンドペーパーで
削って欲しい
ツンツン尖って
色々傷付けるのは
もう疲れたから
取り敢えず
最初は
250番位の粗さで
お願いします
初夏
皐月の声を聴いて久しい
春の花は散り
夏への支度が始まっている
新緑は光を帯びて煌く
風が樹々を撫でると
緑の欠片が四方へ弾け飛び散る
眩しい
人間は立ちすくんでいる
孤独の意味を考えている
それぞれが個で有る事の実感に
不慣れな者は怯えている
思考の隅に影を住まわせている
出口の無い迷路は常に用意されているのに
眼を背けて来たから
いきなり知らない扉の前に立たされて
鍵が無いと嘆いている
光は夏に向かって
益々強くなるだろう
樹々や草花の緑も濃くなってゆく
やがて梅雨もやって来る
人間が居なくても
自然は巡る
何の不自由も無く
知恵が人間と自然を分つ
と言うのなら
試されて居る今
急いで答えを出さなくてはならない
自然と共存して生き残れるか
駆逐されて消えゆくか
知恵は勝つだろうか?
物語
遊ぼ?
遊ぼう。
色彩の妖精は語らない
硝子の向こう側から
言葉の魔法使いに絵をそっと見せる
魔法使いは皆を集め
その絵の物語を語り出す
私達はニコニコしてそれを聞く
もっとお話しして
もっとお話しして
今日はここまで
魔法使いも又
硝子の向こう側に静かに去って行く
遊ぼ?
遊ぼう。
何時も突然
始まる物語
何度も色々なお話が繰り広げられた
幾つもの優しい笑顔が硝子を透過して繋がった
これは夢?
いいえ現(うつつ)
美しい絵と豊かな言葉が確かに出会った
物語を聞いた私達はきっと忘れない
妖精と魔法使いの
暖かで大切な
世界
遊ぼ?
遊ぼう。
パラさんに捧ぐ
夜会
ドアを閉める
エンジンを掛ける
ヘッドライトを点ける
外は車を叩き付ける雨
ワイパーを斥候に
夜を切り裂き滑り出す
高速道路、LEDのシャンデリア
見送り乍ら
万華鏡のアスファルトには
方向を失った水滴が踊り狂う
見惚れてはいけない
前を急ぐトラックが吐き出した噴水に溺れ
一瞬で視界を失う
湿度百パーセントの夜会へようこそ
サイドミラーを砕いて
轟音の雷が笑う
・・・・・・・・・・・・・・・・
どれ位走っただろう
少し休もう、軽く食事も済ませよう
湿ったスカートも乾かしたい
けれど
店に移動するだけで裾は雫のレースが揺れている
座席を濡らすだけだろう
突然
一斉に鳴り響く避難警告の音
奇声を上げる少年達
大人達は動かない否、関心が無い
唯、平然とスプーンを口に運ぶ
帰ろう。
帰れる家が在るのならば
何時もは忘れている
懐かしい扉を開けて
金魚が吐いたアブクの様な安心を
抱いて眠ろう
今夜は騒めき過ぎた
どんな夢も見なくて良い
晴着
正月の結界が解かれ
ほんの少し雰囲気だけ残って居た
ハレは仕舞い込まれた
未だ暖かさを何処かに探すには
表は寒く
ケを襟巻きして耐えて居る
何処に行ってしまったのだろう
あのワクワクしたお正月
晴着を纏うのが待ち遠しかった
子供の頃
褪せていく行事
質素では無く簡単な生活
丁寧な暮らしは晴着と一緒に
押入れの何処かで眠って居る