「鏡の見る夢」

夢にまで見た夢は夢のまた夢

永別

いかないで

強く握っていたはずなのに

あの人は静かに

その手をすり抜けてしまった

消えない

声や笑顔や言葉を残して

いってしまった



時計の針を戻しても

差し伸ばした手を力強く握り返してくれたあの手は

もうどこにも無い

初夏の日差しにくっきりと輪郭を落とした影を

見る事は出来無い



掛け替えの無いものを失った時

人間は途方に暮れる

躯中の細胞が空っぽになるまで

流せるだけの涙を流しきり

憐憫の湖に自分を突き落とす

もしくは自分の中に閉じ篭って

外界と通じる扉や窓に鍵を掛ける



あの人はそう望むだろうか



あなたは強かった

優しかった



もがいてみようかと思います

もがいて、もがいて

悲しみや、非力な怒りを思い出に出来るまで

なんとか生きてみます

あなたには適わないだろうけれど



だから

さよならは言いません

一言だけ贈ります




ありがとう