永別
いかないで
と
強く握っていたはずなのに
あの人は静かに
その手をすり抜けてしまった
消えない
声や笑顔や言葉を残して
いってしまった
時計の針を戻しても
差し伸ばした手を力強く握り返してくれたあの手は
もうどこにも無い
初夏の日差しにくっきりと輪郭を落とした影を
見る事は出来無い
掛け替えの無いものを失った時
人間は途方に暮れる
躯中の細胞が空っぽになるまで
流せるだけの涙を流しきり
憐憫の湖に自分を突き落とす
もしくは自分の中に閉じ篭って
外界と通じる扉や窓に鍵を掛ける
あの人はそう望むだろうか
あなたは強かった
優しかった
もがいてみようかと思います
もがいて、もがいて
悲しみや、非力な怒りを思い出に出来るまで
なんとか生きてみます
あなたには適わないだろうけれど
だから
さよならは言いません
一言だけ贈ります
ありがとう